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発達障害持ちゲームオタク、社会からドロップアウトするの巻

元ニートがCADオペ向きだと思った理由

 どうしてコミュ障でヒキコモリの自分がCADオペに向いていると思ったのか? 今回はそれを書いてみようと思う。過去のエントリと重なる部分も多分にあるが、お許し頂きたい。

 と、その前に「CADオペって何よ」という説明をしておこう。
 CADというのは「コンピューター上での設計を手伝うソフト」。かつては鉛筆と定規で書いていた機械や建築物の設計図を、PCを用いて、より早く、正確に、美しく書けるようにするソフトウェアだ。
 CADオペレーターとは、このソフトの操作を主な業務とする人のことを言う。設計担当者は別にいて、CADオペは彼らの指示を受けてPCの操作を行う。自分で設計を行うわけではないから、畑違い学部の卒業者・完全未経験にも門が開かれている。
 労働条件は事務所によってピンキリだ。機械製造と建築では業界自体が違うし、性格も異なる。僕は専ら建築のお世話になっているので、情報が偏る点についてはご了承頂きたい。

 ちなみにどのお仕事にも悪いところはあるわけで、僕の目から見ても「ここは良くない」と思うポイントも記事の末尾に挙げておく。



 


 さて、CADオペとして働く上で、得意でないと話にならないのが以下。
・PC操作
・事務所に缶詰
・偏りまくった男女比
・沈黙
・空気を読まない
 順番に解説して行こう。

・PC操作
 え、この項目に解説って必要……?
 忙しい設計者に代わってPCの操作をする仕事だから、PCに苦手意識がないことは必須条件だ。
 とはいえマウスとファイルの扱いさえマトモなら仕事は成立する。加えて「ブラインドタッチが出来る」「ショートカットキーが使える」「コマンド入力の概念を理解している」これくらい出来ると「手が早くて使える人」という評価を受ける。
 よもやネトゲ廃人時代に培った技能で、そんな評価を受ける日が来ようとは。

・事務所に缶詰
 仕事の大半は、手元の資料とPCで完結する。動く必要がなさすぎて、対策をしておかないとエコノミークラス症候群になりかねない。
 こうした仕事では、肉体労働とは異なる方向性の体力が求められる。一日同じ姿勢を維持することに耐えられる目、肩、腰、それらのセルフケアの知識。
 建築の現場事務所の場合、機械室とか地下に押し込められたりして、人によってはそれだけでも病みそうな環境である。おまけに関係者以外立ち入り禁止で、外部の人との接触は皆無だ。
 太陽が怖くて自室の遮光カーテンを閉め切る、元ヒキコモリPC廃の僕はこれらを問題としない。

・偏りまくった男女比
 建築にせよ製造にせよ、男性社会には違いない。男性10に対して女性1あるいはゼロ、学校の理系クラスより極端で、下手をすると女性用トイレがなかったりする。
 従って、男尊女卑の思想を隠そうともしない人、口を開けばセクハラ発言、そういう一般社会では淘汰されつつあるはずの人種が当たり前に存在している。今は職場の禁煙化が進んでいるとはいえ、喫煙者も多い。
 この環境下では、「普通の女の子」が生き残ることはまず不可能だ。同調を求めず、不快な発言を受け流し、トイレが汚れていれば自分で勝手に掃除する、そういう精神が必要なのである。
 女同士の面倒がないので、僕はありがたいとさえ思っているが、これは元々「普通の女の子の輪」に馴染めないはぐれ者の意見であろう。
 ちなみに建築の場合、工事が終わってしまえば嫌でもチームは解散するので、折り合いが悪い男性同士も「これが終わるまでの我慢」とさばさばした雰囲気だったりする。

・沈黙
 これは事務所による、ということは断っておく。ただ、「静かな人歓迎」というニーズが常に一定数存在する職種なのは確かだ。
 ものを書きながらお喋りを出来る人は少ない。考えながら書いてゆく作業をしているのなら、尚更に。設計者の邪魔をしないように沈黙し、自分の作業に集中するために沈黙し、CADオペレーターは貝のように黙っているのが仕事の内だと言われても僕は驚かない。仕事中の私語など以ての外である。
 で、設計者は徹夜続きのため休み時間に寝潰れているとなると、職場での私的な会話など交わしようがないのであった。お喋りと人の和を尊ぶ人は間違いなく病む。
 逆に、人と関わると精神力を消耗するという人種にはありがたい環境だ。前項の通り、同性間のしがらみも、ネチネチと育まれた確執もない職場だから、最近の僕は人間関係でストレスを受けることがなくなってイキイキしている。

・空気を読まない
 みんなが自分の作業に没頭している仕事場。ここで質問をするのは、結構な勇気が要る。
 設計者から渡された図面の内容に明らかな不具合がある。これを指摘するのも、やはり勇気が要る。
 けれど机上ですら問題ありと判断されるような図面は、実際にものを作ってしまえば材料費が無駄になるし、作りようもない場合は現場の作業が止まってしまう。
 CADオペはこういう時、空気を読んではいけない。沈黙も相手の集中もお構いなしに質問する図々しさ、相手が目上であろうと間違いを指摘する図太さが美徳となる。

 実際は自分の主張だけ押し通せばよいというわけではなく、人間的な緩衝テクニックがある方がいいけれど、とりあえず声を上げることは空気読んで沈黙するよりも好ましいのである。
 空気を読める人があえて空気を読まない勇気と比べれば、元々空気を読めない僕が「あー俺いま空気読めてねぇなー」と思いながら発言するための気力など無に等しい。無に等しい気力で、業務上必要なことをこなせるのだから、それは職業に対する適性というものだろう。

 以上のような特性から、僕はこの仕事が自分に向いていると判断した。誰にでもおススメ出来る仕事!ではなく、僕みたいな人には適する仕事。
 適材適所と言葉で言うのは簡単だが、実際に自分が適した職を探して来るのはなかなか骨だな……と就職・転職ガイドを見て思う。チャートでチェックしても、こんな仕事は引っ掛からないものな。


 なお、CADオペの仕事自体は好きだけれど、それはそれとして、どう考えてもマイナスの点もある。
・職場での力関係的には最底辺
 CADオペの立場は、設計関連部署の最底辺である。そういう仕事なのだから仕方がない。
 しかし、コピーと電話番が主な事務の人相手には「他部署の人」として対等に話すのに、技術も知識も求められるはずのCADオペの扱いはぞんざい、という設計者がいるのはなかなか切ない。

・向上心が必要な割に労働条件の頭打ちが早い
 項目名としては随分長いが、本当のことだ。CADオペレーターの仕事はあくまでも事務的補助業務として扱われ、正社員にさせるものではないとされる。
  一方で図面を書く以上、そこに書かれることの意味が分かっていないと困る。「未経験可」というのは「入った後に覚えてもらえばいい」という意味でしかな い。法律で定められた規格も覚えなければならないし、設計にミスがないか検算したりもする、事務所によっては設計者並みの勉強を求められる。
 僕はそれを楽しめているからいいけれど、求められる努力量の割には見返りの少ない仕事だとも思う。たとえ資格を取ったところで、あくまでも補助業務であるから、給与は事務に毛の生えた程度だ。
 その上を目指そうとすれば、転職か、設計者のレベルまで這い上がるしかない。

・権限はないのに責任は背負わされる
 設計者の指示を受けて図面を書く、CADオペには図面の内容を決定する権限はない。
 そのはずなのだが、最終的に線を引くのはCADオペであるので、図面の不備の責任を背負い込まされることが結構あるそうだ。
 設計段階で間違っていたものに気付けなかったとか、手書きの文字を読み間違えたとか、「それ設計者の不手際じゃね?」というような理由でお叱りを受ける。「ここは君が適当に考えて」と言われた部分で間違いを犯せば、もちろんその責任も発生する。
 あくまでも補助業務という名目で、だから薄給でも我慢してよね、と言われているにも関わらず、責任だけは一人前に背負わされるのである。
 僕は今のところ、ちゃんと庇ってくれる、職人の手前では怒っても後々謝ってくれるような上司にしか当たっていないから良いのだけれど、つまりは上司の人格次第でひどい目に遭う可能性がある、弱い立場であるということは覚悟しておいた方がいい。

 楽な仕事はないというが、これらは職業上の苦労ではなく、単なる理不尽と言うべきであろう。
 とはいえ今回の記事で挙げた僕の特性がハマる職業などそうそうない気はするから、今のところは我慢の日々である。
 他に適職と思われる候補があったら、是非お知らせ頂きたい。