夜明けはいつになりますか

ゲーム畑在住アラサーオタク女、ニートからの社会復帰一年生による思考記録。

脱ニートの時に考えたこと 今の僕のこと

 27歳まで、僕は引きこもりのニートだった。
 この記事は社会復帰を果たした僕から、少し前の僕と、引きこもりのニートを脱したいあなたへ宛てたお手紙です。人間が怖くて、体力がなくて、趣味はオタ系しかない、それでも社会復帰したい、そんな人へのお手紙。

 しかし、まずは。
 ニートというのは無職かつ働く意思がない人のこと。働きたいと思った瞬間に脱ニートは完了である。おめでとうございます。
 問題は、脱引きこもりと就職であろう。

 
 元引きこもりの就職がなかなか決まらないのは、実は履歴書の空白期間のせいではないと僕は思う。学校での勉強と直結してない仕事は多いのだし、脱サラなんて言葉もあるように全くの異業種へ転職する人だっている。
 本当に問題視されるのは、「引きこもりになっちまう人間性」だ。困難に立ち向かわず逃げ出したという前科。長く家族としか(もしかすると家族とすら)会話のなかった人間が、仕事上の意思疎通が出来ないと決めつけられても文句は言えない。履歴書の空白期間はそういう風に解釈され、敬遠されてしまう。

 そう、引きこもりの人間性そのままでは、流石に無理がある。

 一番に求められるのはコミュニケーション能力だ。これさえあれば、と言うより、これがなければ始まらないと言うべきか。
 会話。コミュニケーション。信用の獲得。人間恐怖症の引きこもりにとってこれほど難しいことはない。
 僕もそう勘違いしていたのだが、働くだけなら、いわゆるコミュ力は要らないのである。

 仕事てのは、小奇麗に書けば「誰かのお役に立ってお礼を頂くこと」、あけすけに書くと「相手の欲求を満たし、対価として金銭を得ること」だ。だからまず、相手が何を求めているのかを知らなきゃいけない。
 分かりやすいのは飲食店での注文で、きちんと聞かずに間違った料理を出せばお叱りを受けるし、お代が頂けなくても仕方がない。通販でも、頼んでもいないものを勝手に送りつけられて代金を請求されたらおかしいだろう。
 上司からの指示も、「これをして欲しい」という要求だ。何を求められているのか理解しなければ、見当違いのことに必死になって必要な仕事は出来ないという事態が起こり得る。何も出来てないけど頑張ったので給料下さい、そんな無茶苦茶な話はないから、話を聞かない・理解しない奴は採用しない、ということになる。
 逆に言えば、相手の要求を汲み取ることさえ出来れば仕事は出来る。仕事に求められるコミュニケーション能力てのは、これだ。相手が何を求めているのかを聞き取り理解する力だ。しっかり聞いていることを相手に伝えるための相槌が打てて、不明な点の質問が出来れば、働く上では及第点である。
 こいつはちゃんと聞いて分かってる、そう思って貰えれば仕事は振って貰える。仕事を間違いなくやり遂げれば、黙っていても信頼の貯金は増えて行く。やり遂げると言っても、自分の能力では無理のある仕事だと思ったら、早めに周囲のフォローを仰ごう。やるべきことは「自分一人でやり遂げること」ではなく、「仕事を完成させること」なのだから。



 よく聞くこと。人間が怖くても、これだけなら頑張れるんじゃないだろうか。少なくとも僕にとっては、うまく話すことよりはずっと簡単に思えた。
 今のところ仕事に役立っているのも「話すこと」ではなく「聞くこと」である。と言うか話なんて全然してない。



 僕は現在、CADオペレーターとして働いている。場所が自室から職場に、お絵かきソフトがCADソフトに変わっただけで、中味は相変わらずだ。「おはようございます」「お疲れ様でした」と最低限の情報交換でしか口を利かない日も多い。
 ただし、「最低限の情報交換」はきちんとやっている。資料に矛盾があれば上司に報告、分からないことがあれば質問。半端に誤魔化せば誰かが尻拭いをする羽目になるし、僕が何も出来なくても会社は賃金を支払わなくてはならないわけだから、多少空気を読めていなくてもぐいぐい言うことにしている。
 一度聞いて理解してしまえば、あとは黙って作業するのみ。私的なお喋りは一切しない。最近は初歩的な質問をしなくなったから、本当に挨拶しかしない日もある。それが出来る人はこの世界では重宝されるのだと、就職してみて初めて知った。
 みんなが自分の図面を抱えているから、無駄話で周囲の気を散らす人は嫌われる。昼休みは激務に追われる設計者の貴重な睡眠時間であり、業務の電話もなく静まり返っている。賑やかな事務所も勿論あるけれど、お喋り好きはお断り、なんて所も存在する。
 で、大抵の人は9時間もの沈黙に耐えられないから、無言が苦痛でない人材は常に一定の需要がある、ということらしい。空気を読むタイプの人の方が、沈黙に怖気付いてしまって必要な質問も出来ずに困ったりしている。
 僕は一日中のPC作業も沈黙も平気だ、と言うかヒッキーはそれがデフォだ。後々説明を求められると嫌だから、図面は分かりやすく書くよう心掛けている。質問ですら口を利く回数を減らしたい、という後ろ向きな動機で設計のテキストを読み漁っていたら、設計者さんには可愛がって貰えるようになった。人懐っこく話し掛けられるのも嬉しくはあるが、設計技術に興味を示される方がもっと嬉しい、技術者とはそういう人種なのだそうである。
 元々勉強は嫌いじゃない。自分で設計とまでは言わずとも設計図のミスに気付ける程度にはなりたいと思っている。図面の意味が分かるようになると作業も俄然楽しくなってきた。
 僕は、この仕事に向いているのだと思う。

 


 あなたは人と合わせてお喋りすることは苦手かも知れないが、他にも沢山欠陥があるのだろうが、何も出来ないわけではないはずだ。
 出来ることをしてお金を得たい、それはとても健全な発想だ。働きたいと言って良い。欲求を口にする権利はある。あとは、出来る仕事を探すだけだ。今すぐは無理でも、出来るようになればいい。

 覚悟を決めたら、どうか頑張って。行ってらっしゃい。